40歳代後半から、親の介護問題に直面する人が多くなってきます。会社勤めの方なら、50歳から定年までは仕事と介護を両立しなければならない時期となります。「介護離職」という言葉も度々聞かれる中、仕事と介護の両立は可能なのでしょうか?
仕事をしながら介護もすることは可能なのでしょうか?両親の様子を見て、そろそろかなあと不安が募っているのですが、体力面でも精神面でも大変そうです…。
親の介護は避けては通れないことなので、年齢的に介護が視野に入ってくる世代の方には心配なことですよね。介護に直面する時期は大体決まっているので、事前の心構えや知識・準備が重要ですよ!
「主な介護人」は誰?
もしもご両親が倒れたら、誰がメインで介護をすることになりそうでしょうか?
主な介護の担い手は誰になるのかというと、最も多いのは同居の配偶者です。つまり、父や母に介護が必要になったら、その連れ合いが介護するというのが一般的と言えます。
下記は、主として介護を担っている介護者の属性についてのグラフです。同居の家族が半数以上を占めますが、別居の家族でも13.6%あり、また別居の家族を含めると子供世代が約4割を占めています。
主たる介護者の話をしましたが、介護をはじめるにあたって、誰か1人に介護を押し付けるのではなく、家族で役割分担について話し合いましょう。要介護者の配偶者や子など、中心となる介護者が決まったら、その他の親族で「親しい方々への連絡係」や「入院や介護に必要な物を手配する係」「元気な方の親をサポートする係」など、介護の役割分担をしましょう。サポートする人が増えることで、1人あたりの負担が分散され、比較的安定した介護体制を築くことができます。
たしかに、1人で介護をし続けていると、その介護者が急に倒れた時にどうするのか、慌てることになりますね。
働き続けるためのポイント
仕事をしながら介護をする場合には、時間的にも体力的にも制約があるため、すべてを自分1人で賄うことは不可能です。いつ終わるかわからない介護と仕事を両立させる方法として、下記の6つのポイントが挙げられます。
要介護者の病院の付添や、急な体調不良、休暇の取得など仕事に影響が出る場合も多々起こります。その際に「介護のため」という理由がはっきりしていれば、周囲の理解や協力も得られやすくなるものです。会社独自に介護支援制度を設けている場合もあるため、担当の部署に確認しておきましょう。
要介護者の介護をすべて担おうとすると、多くの時間と体力を要します。介護のために働き方を変える必要や、働くことを諦めなければならないこともあるでしょう。働きながら介護をする場合には、介護保険サービスの利用が欠かせません。
介護保険サービスについての説明は、こちらからどうぞ。
介護保険の利用申請から、要介護認定されるまでは約1か月(実際には1か月以上)かかります。ただし、決定された要介護度は申請日にさかのぼって有効となるため、要介護認定される前でも暫定的にサービスを利用することができます。入院している場合は在宅に戻った場合に備え、早めに申請し、介護の体制を整えられるようにしましょう。
ケアマネージャーとの付き合い方は特に重要です。ケアマネージャーが、「ケアプラン」と呼ばれるサービス計画書を要介護者・介護者と相談して作成してくれます。その他にも、介護者の悩みや不安に向き合うこともケアマネージャーの仕事です。介護のストレスや悩み・不安を相談すれば、何か解決につながるご提案ができるかもしれません。
介護は急にやってくるものです。家族とは「介護に直面した場合にどうするか」を元気なうちに話あっておきましょう。また、認知症となり徘徊をするようになった場合や、遠距離介護の場合は、近所の人に助けてもらう機会も多くなるかもしれません。良好な関係を築くため、日ごろから積極的にコミュニケーションをとりましょう。
1人で介護の問題を抱え込んだり、介護のことばかりを考えていると精神的に追い詰められ、介護うつの状態になる可能性が高まります。ショートステイや周りの人の手をかり、介護者も息抜きをする時間をつくり、介護から離れて趣味を楽しむ時間や、自分の生活を優先する時間も作りましょう。
簡単にまとめると、仕事と介護を両立させるためには、周囲の人々と協力しながら、介護保険や介護者への支援制度を上手に利用することが鉄則です。
たしかに、介護保険の介護サービスを利用することで、介護者の負担は大きく減りそうです!
介護者を支援してくれる制度って、どんなものがあるのでしょうか?
介護者を支援する制度は何があるの?
日本には、「育児・介護休業法」という法律があります。この法律をもとに、企業が育児や介護が必要な従業員に対し、時短勤務や夜勤の免除などを認める制度を作ることが義務付けられてます。
「介護休業」と「介護休暇」
要介護状態の家族を介護する会社員等は、育児・介護休業法に基づき「介護休業」と「介護休暇」を取得することができます。これらは、どちらも介護のために休日をとれる制度ですが、主に取得できる日数が異なります。
介護休業 | 介護休暇 | |
---|---|---|
取得可能日数 | 対象家族1人あたり、3回まで通算最大93日 | 対象家族1人あたり年間最大5日(対象家族が2人以上の場合には、年10日まで) |
賃金・給付金 | 原則無休(会社の規定による) 雇用保険の介護休業給付金制度を利用可能(条件による) | 原則無休(会社の規定による) |
申請方法 | 開始日の2週間前までに書類をそろえて提出する | 当日でも申請が可能 |
取得対象者 | ・要介護状態の対象家族を介護している ・介護休業開始予定日から、93日経過しても6か月は雇用が続く ・雇用期間が1年以上(※) ・申し出の日から93日以内に雇用期間が終了しない労働者(※) ・1週間の所定労働日数が2日以上(※) | ・要介護状態の対象家族を介護している ・雇用期間が6か月以上(※) ・1週間の所定労働日数が2日以上(※) |
※対象となる家族は、どちらの制度でも配偶者(内縁含む)・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫
※取得対象者の(※)がつく項目は、労使協定を締結している場合に対象となる条件
「最大93日」だと、長く休業しすぎて職場に復帰しづらくなってしまうのではないでしょうか?
介護休業の「3回まで通算最大93日」は、3回に分けて取得することが可能ということです。
また、この休業は介護をするだけの時間ではなく、働きながら介護をするための体制や環境を整える期間として利用することが目的です。介護保険の申請や、ケアマネージャーとの面談・ケアプラン作成、住宅改修などの時間に充てましょう。
介護休業給付金
介護休業の取得中は原則無給のため、雇用保険による給付金が受給できます。
給付条件は下記の通りです。
・雇用保険の被保険者である(1年以上)
・家族の常時介護のため、2週間以上の休業が必要
・職場復帰を前提として、介護休業を取得していること
このような条件を満たす場合、最長93日を限度として、3回まで支給されます。
受給金額は、「賃金(日額)×休業日数×67%」で算出します。しかし、会社から月給の13%~80%が支給されている場合は、月給の80%までの差額分を支給、月給の80%以上会社から支給された場合には給付金はもらえません。
また、注意点として下記のことを覚えておきましょう。
・介護休業期間中、1か月のうちに10日以上就労した場合は支給対象外
・育児休業給付金と介護休業給付金は同時には受給できない
・有期雇用の場合①介護休業が開始される時点で、同じ事業主から1年以上雇用されていること②介護休業開始予定日から93日が経過する日から6か月経過する日までに労働契約の終了が予定されていないこと、という条件がつく
休業中に収入がないのはつらいです。この給付金はいつもらえるものなのでしょうか?
給付金の申請タイミングは、介護休業終了日の翌日から、2か月後の月末までとなっています(例:介護休業が7月1日に終わった場合、7月2日~9月30日の間に手続きを行う)。
申請手続きは基本的に、勤務先を経由してハローワークへ申請します。提出に必要な書類もあるので、勤務先の担当者に確認しましょう。
勤務先での対応
厚生労働省が「介護離職ゼロ」を掲げているので、現在は会社が介護者に配慮することが義務づけられていますよ。
上記の制度の他にも、会社には下記のような対応が義務付けられています。
- 所定外労働の制限
- 所定労働時間の短縮等の措置
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
- 転勤に対する配慮
- 不利益取り扱いの禁止
- 介護休業等に関するハラスメント防止措置
会社独自の制度として、下記のような対応をしている企業もあります。どんな制度があるかわからない時は、社内の担当部署に問い合わせてみてください。
- 休日勤務の制限制度
- 時間単位・半日単位の休暇制度
- 在宅勤務制度
- 遅刻・早退、中抜け
こんなに介護者を支援してくれる制度があるなんて、知りませんでした!でも、実際にフルタイムで働いている場合には、長期でお休みすることは難しそうだなあ…。
介護離職と介護うつ
「介護離職」とは、家族の介護と仕事の両立が難しくなり、会社を辞めることです。介護離職をする人は、2020年の調査では約7万人もいるのです(参考:厚生労働省「令和2年 雇用動向調査」)。
介護には先が見えず、また休みもありません。昼間はフルタイムで働き、帰宅後は家族の介護をする状況が長く続くと、介護者は心身ともに疲弊してしまいます。また、介護離職によりずっと要介護者と過ごすこととなり、社会とのかかわりが薄れ、介護うつや要介護者の虐待など、どんどんネガティブな方向へと進む可能性もあります。
介護離職によるデメリット
介護離職は、介護を集中して行うことができるというメリットがありますが、デメリットにも目を向けてみましょう。
- 主な収入源がなくなる
- これまでのキャリアを失う
- 介護が終わった後、再就職が難しくなる
- 要介護者との距離が近くなりすぎることから、仲違いなどのトラブルに発展しやすい
仕事も頑張らなきゃいけないというストレスがなくなるし、親への恩返しもできるし、介護にかかる費用も節約できるし、介護離職にはメリットもあるけれども、デメリットも大きいですね。
大切な家族の介護をしてあげたいという気持ちもあると思いますが、親の介護が終わってからも自分の人生は続きます。自分が介護を受ける時も必ず来るので、自分の老後資金も貯めておかないと不安ですよね?
離職する前に、働きながらできる介護の仕組みはないのか、よく考えて結論を出すことをお勧めします。
介護うつ
介護疲れやストレスがたまると、介護うつを発症する危険性もでてきます。介護うつとは、介護を通して溜まった疲れやストレスなどが原因となって発症するうつ病のことです。真面目で責任感の強い方・人の気持ちに敏感な方がなりやすいと言われています。
下記のような症状が見られる場合、介護うつの可能性が高いかもしれません。
- 食欲がなく、食べてもおいしいと感じない
- なかなか寝付けず、途中で何度も目が覚める
- いつもなら楽しいことが楽しくない
- 気分が晴れない状態が続く
- 趣味や好きなことが楽しめない
介護離職をすると、仕事の交友関係が一気に断たれ、コミュニケーションをとる人が限られてしまうのも、ストレスの一因になりそうですね
1度介護うつになってしまうと、治療に時間もかかり、介護もうまく進まなくなってしまいます。「自分は大丈夫」と過信しすぎることなく、少しでも思い当たる症状がある時は早めに外部に相談しましょう!
両立してきた方のモデルケース
みんなはどうやって介護と仕事を両立しているんだろう?
仕事と介護の両立のポイントや、仕事をしながら介護をしてきた方々の事例が、厚生労働省のHPに多数掲載されています。要介護者の介護度や、家庭の事情など、介護の状況は多種多様です。自分と似た境遇の事例や、遠距離介護の事例、兄弟姉妹との連携など、参考に見てみるのもいいですね。
厚生労働省 「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」
「【4】仕事と介護 両立のポイント・事例(労働者向け)」の項目です!
おわりに
仕事と介護の両立について、イメージはつきましたか?仕事も介護も両方頑張ることは、簡単なことではなく、強い気持ちが必要であることは事実ですが、様々な制度や周囲の助けを借りて実際に両立されている方も多くいらっしゃいます。
初めての介護だと、利用できる制度や介護保険の仕組み等を知らずに、1人で抱えこんでしまうこともあるかもしれません。そんな時は、介護のプロであるケアマネージャーに相談してみましょう。あい里でも、随時介護相談を承っております。介護相談窓口からお気軽にどうぞ!